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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)4633号 判決

原告

株式会社弥生工業所

右代表者

尾崎保彦

右訴訟代理人

泉博

河合弘之

被告

オリエント・リース株式会社

右代表者

宮内義彦

右訴訟代理人

林彰久

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三一五七万四四〇〇円及びこれに対する昭和五三年五月二六日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告オリエントリース株式会社(以下「被告会社」という)は、各種動産の賃貸借等リースを業とする株式会社である。

2  原告株式会社弥生工業所(以下「原告会社」という)と被告会社とは、昭和四六年一一月二〇日、賃貸人を被告会社、賃借人を原告会社とする以下の内容のリース契約を締結した(以下「本件リース契約」という。)。

(一) リース物件 静岡県熱海市後楽園に設備してある岡野鉄工株式会社(以下「岡野鉄工」という。)製造にかかるティー・カップ、米国カスター社の製造にかかるバブル・バウンス各一台(以下それぞれ「本件ティー・カップ」、「本件バブル・バウンス」といい、本件ティー・カップ、本件バブル・バウンスを合わせて「本件リース物件」という。)。

(二) リース期間 昭和四六年一二月から同五一年一一月まで六〇か月。

(三) リース料 月額金五二万六二四〇円(以下「本件リース料」という。)。

(四) リース料の支払方法 昭和四六年一一月二〇日から同五一年一〇月二〇日まで毎月二〇日に支払う。

〈以下、事実省略〉

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二同2の事実中、原告会社と被告会社とが、昭和四六年一一月二〇日、本件ティー・カップ、本件バブル・バウンスを昭和四六年一二月から昭和五一年一一月まで六〇か月間、月額金五二万六二四〇円のリース料を昭和四六年一一月二〇日以降毎月二〇日に支払う約定で、本件リース契約を締結したことは当事者間に争いがなく、本件リース物件については、原告会社が主張する静岡県熱海市後楽園に設置してあるものとする点に関して原告会社の主張を認めるに足りる証拠はなく、却つて、本件リース契約の契約書である〈書証〉によると、本件リース物件は、原告会社と被告会社との間で、静岡県熱海市和田浜南町一〇の一号株式会社熱海市後楽園に設置するものであるとの合意がなされたことを認めることができ、右認定に反する反証はない。

三同3の原告会社が本件リース契約の約定に従つて本件リース料合計金三一五七万四四〇〇円を被告会社に支払つたことは、当事者間に争いがない。

四同4については、〈証拠〉によると、本件リース物件は、いずれも本件リース契約が締結された当初から存在しなかつたものであることが認められ、特段の反証はない。

五そこで、かゝる場合における本件リース契約の有効性について検討する。

1  まず、原告会社は、いわゆるリース契約は、一般的には、現に存在する特定の物件についての賃貸借契約の締結を目的としている契約であると主張し、被告会社は、いわゆるリース契約というのは、代替物を目的とした契約であつても有効であると反論するので、検討する。

(一)  原告会社と被告会社とが本件リース契約を締結するに至つた経緯及び締結された本件リース契約の内容についてみるに、〈証拠〉を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(1) 被告会社は、昭和四六年四月ころ、日商岩井から五味良行が代表取締役である千代田がワールド・カップ一五五台についてリース(いわゆる金融手段の一類型としての特殊の性質を有する貸借の意味。以下同趣旨として使用する。)してほしいと希望している旨の申込みがあり、同月二三日、千代田の第三事業部副部長である神藤副部長を知るところとなり、また千代田の信用調査をする過程で千代田の第三事業部長である中山部長を知るところとなつた。

そして、被告会社は、千代田とリース取引をすることを決め、同年六月二一日、右ワールド・カップを期間を昭和四六年七月から二四か月、リース料を月額金七四万一七三〇円、合計金一七八〇万一五二〇円で千代田に賃貸して、千代田からは、右ワールド・カップの引渡を受けて検査を終えた旨の意味を表示する借受証の交付を受けた後、同日、右ワールド・カップを代金一四六八万七八〇〇円で日商岩井から購入したとして、同年九月一日、日商岩井に右売買代金の支払を了した。

その後、被告会社は、ワールド興業からジューク・ボックス四四台を購入して、これを千代田にリースしてほしい旨神藤副部長から申し込まれ、同年六月三〇日、右ジューク・ボックスを期間を昭和四六年七月から三六か月、リース料を月額金三六万八〇〇〇円、合計金一三二四万八〇〇〇円で千代田にリースして、千代田から右同様の借受証の交付を受けた後、同日、ワールド興業から右ジューク・ボックスを代金一〇〇〇万円で購入して、同年七月一〇日、ワールド興業に右売買代金として支払を了した。

さらに、被告会社は、ワールド興業から映写機九八台を購入して、これを千代田にリースしてほしい旨神藤副部長に申し込まれ、同年九月三〇日、右映写機を期間を昭和四六年九月から三〇か月、リース料を月額金四一万七四八〇円、合計金一二五二万四四〇〇円で千代田にリースして、千代田から右同様の借受証の交付を受けた後、同日、ワールド興業から右映写機を代金九八〇万円で購入して、同年一〇月六日、ワールド興業に右売買代金を支払つた。

(2) 神藤副部長は、同年一〇月初めころになると、また大型娯楽機を千代田にリースしてほしい旨被告会社に申し込んだが、被告会社は、被告会社の千代田に対するリース料債権がそれまでに金四〇〇〇万円を超えていたため、千代田に対する与信の枠を超えているとして神藤副部長の申込みを断つたところ、神藤副部長は、さらに、大型娯楽機である本件ティー・カップ、本件バブル・バウンスを日本娯楽機から約二〇〇〇万円で購入して、千代田グループの一社であり、千代田の代理店である原告会社にリースしてほしい旨被告会社に申し込み、ティー・カップ、バブル・バウンスの写真を被告会社に交付した。

そこで、被告会社の担当者である毎熊は、同月一八日、原告会社の事務所に赴き、社長の尾崎保彦、専務で社長の弟である尾崎俊夫と会つた。

(3) ところで、原告会社は、従前、船舶艤装品並びに油圧機の製造、販売を業とする会社であり、それなりの業績を挙げていたものであるが、昭和四〇年九月、千代田の中山部長に頼まれて千代田の代理店として第二事業部を設立し、娯楽機械であるボーリングの機械を製造するようになつた。千代田は、商社であり、社内に製造部門をもたなかつたため、同社が遊技機械の製造または修理をする必要があるときは、千代田の第三事業部が原告会社などにそれを委託していた。千代田においても、また原告会社においても、原告会社が右のような仕事をするためには都合がよいこともあつたことから、原告会社が千代田の代理店である旨表示することを相互に了解していた。

原告会社は、その後、昭和四四年、千代田から依頼されて東京都練馬区にある豊島園に、屋外の大型娯楽機械であるアストロ・スライドを製造して取り付け、その後も、千代田から依頼されて、東京都内の後楽園スタジアム、西武園、品川スケート・センター、大磯ロング・ビーチ、熱海後楽園などで遊技機械を修理したことがあり、そのような関係から千代田に対する信頼感を持ち、特に同社の第三事業部長である中山部長に対する信頼を深めていつた。

このような取引関係の下で、原告会社の社長である尾崎保彦は、昭和四六年一〇月ころ、中山部長から、「被告会社から熱海後楽園にティー・カップとバブル・バウンスのリースを受けて、それをワールド興業に貸してやつてほしい、リース期間は五年である、被告会社に対するリース料の支払は、ワールド興業から被告会社に支払うリース料の一割増のリース料を支払うことにするから、その中から支払つてほしい、ワールド興業のリース料の支払については千代田が責任をもつ、これは非常にもうかる話であるが、どんなにもうかつても、原告会社には本件リース料の一割しか利益がない、話は被告会社から聞いてほしい」という趣旨の申込みを受けたが、原告会社の代表者である尾崎保彦は、リース料の支払は千代田が責任をもつてくれるし、毎月本件リース料の一割の利益が得られるならば本件リース物件をリースしてもよいとして、中山部長の申込みを承諾した。

そして、前述のとおり、毎熊が、同月一八日、原告会社の事務所に赴いてきた。

(4) 毎熊は、原告会社の尾崎保彦、尾崎俊夫に対し、原告会社の業歴、営業内容、ティー・カップ、バブル・バウンスをどこに納めるかなどのいわゆるリースの条件等について聞き、これに対して、尾崎保彦らは、「原告会社の本業は、石川島播磨重工業の下請的な仕事であり、油圧機器などの部品の製造販売をやつている、第二事業部で娯楽機械を取扱つている、ティー・カップ、バブル・バウンスは熱海後楽園に入れる、その売上げは月に約金二〇〇万円を見込んでおり、その二割位を場所代として熱海後楽園に支払い、残りが収入になる。」などと説明したうえ、原告会社の経歴書、決算報告書を被告会社の毎熊に交付した。

毎熊は、さらに、同年一一月四日、日本娯楽機の営業課主任である訴外宮崎武に会い、本件リース契約の対象とされる本件ティー・カップ、本件バブル・バウンスの価格などについて聞き、右宮崎武から、日本娯楽機が作成した「納入場所熱海後楽園、取引条件については、三ケ月の約束手形、品目バブル・バウンス(米国カスター社)、ティー・カップ(岡野鉄工)、金額合計金二〇八〇万円」などと記載してある見積書の交付を受けたので、被告会社は、右の金額を前提にして、本件リース物件を五年間リースする場合のリース料を試算し、その結果を原告会社に伝えた。

被告会社は、毎熊の調査結果などが得られたので、同月九日ころ、同社内の審査部において、原告会社が金二〇八〇万円の本件リース物件を五年間リースを受けた場合そのリース料が支払えるかどうかなどについて検討したところ、当時の状況では原告会社の経営に不安があり、本件リース契約に関して、原告会社の主たる取引銀行である三和銀行の保証が得られるならば原告会社に本件リース物件をリースしてもよい旨の結論を出し、原告会社に対し、三和銀行の保証をつけてほしい旨を伝え、原告会社もこれを了解する旨の返答を得た。

(5) 被告会社は、以上のような原告会社と日本娯楽機との交渉の結果を踏まえ、本件リース物件についての価格、納入場所など本件リース契約の取引条件、それに付随する本件リース物件の購入、三和銀行の保証などを得て、社内決済を経て契約の細目を決定し、その決定のあつたことを原告会社、日本娯楽機に伝えたところ、同月一九日、日本娯楽機の業務課長である訴外百瀬克彦から、同社が作成したバブル・バウンス(米国カスター社)、ティー・カップ(岡野鉄工)を原告会社分として納入した旨の記載のある納品書の交付を受けた。

そして、その翌日、原告会社と被告会社との間において本件リース契約を締結するように予定されていたものであつたが、原告会社の尾崎保彦は、本件リース契約の取引条件についてはそれまでに中山部長から聞いたり、毎熊から伝えられたりなどしてよく知るところであつたので、本件リース契約の契約書に調印することなどは、一切原告会社の専務取締役である弟の尾崎俊夫に任せて、自分は所用のため外出した後、毎熊と被告会社の担当者中島洋は、原告会社の事務所に赴き、専務尾崎俊夫に会つた。毎熊らが尾崎俊夫に本件リース契約の条項を説明したうえ、本件リース物件を受け取つたかどうか聞いたところ、尾崎俊夫は、本件リース物件を受け取つた旨回答した後、原告会社と被告会社との間で交渉ずみであつたことから、被告会社は、本件リース物件の存在を確認することなく、予め準備して持参していた本件リース契約の契約書と、本件リース物件を熱海後楽園において本件リース契約書に基づいて借り受けた旨の記載のある借受証を原告会社に交付し、原告会社の尾崎俊夫は、原告会社の会社名を記名したうえ、原告会社の代表者印を押印して毎熊らに交付したほか、本件リース契約に従つて前受リース料と第一回目の本件リース料の二か月分のリース料相当の金員として、原告会社振出にかゝる額面金一〇五万二四八〇円の小切手を振り出し、毎熊らに交付した。しかし、被告会社の担当者である毎熊は、本件リース物件が、現実に契約書記載の熱海後楽園に設置されているかについてまで確認することなく、原告会社から交付された借受証を受領したことで、本件リース物件は、借主である原告会社がその存在をも確認しているものとして取扱い、その後の事務手続を進めていつた。

また、被告会社は、右同日、三和銀行から、三和銀行が、原告会社の本件リース契約上の債務について連帯保証する旨の記載のある保証書の交付を受けた。

他方、被告会社は、本件リース物件について被告会社が日本娯楽機から購入したい旨の注文書を日本娯楽機に交付し、右同日、日本娯楽機から、本件リース物件について「受渡場所熱海後楽園、賃借人原告会社、支払条件三か月約束手形払、ティー・カップ一台金九八〇万円、バブル・バウンス一台金一一〇〇万円、被告会社の右注文を請ける」旨の記載のある注文請書の交付を受けたことにより、本件ティー・カップを代金九八〇万円、本件バブル・バウンスを代金一一〇〇万円で日本娯楽機から購入する旨の本件売買契約を締結した。被告会社は、同月二四日、本件リース物件の代金の支払のために、同社振出にかゝる額面金二〇八〇万円、支払期日昭和四七年二月一九日の約束手形一通を日本娯楽機に振出、交付し、右手形は支払期日に決済された。

(6) 以上の事実が認められ、右の認定に反する原告代表者尋問の結果は信用するに足りないし、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  右に認定した事実によつて、本件リース契約が締結されるに至るまでの経過について検討してみると、本件リース契約の目的物である本件ティー・カップ、本件バブル・バウンスはいずれもその価額が金一〇〇〇万円前後の大型の娯楽機械であるところ、原告会社と被告会社とは、千代田の第三事業部の中山部長と神藤副部長の仲介によつて、熱海後楽園に設置する予定で本件リース契約を締結しようとしていたものであり、本件ティー・カップは訴外岡野鉄工の製造にかかるものであり、本件バブル・バウンスは米国カスター社の製造にかかるものであり、それらを被告会社が購入する金額は合わせて金二〇八〇万円にもなるうえ、本件リース契約が締結される前日には、本件リース物件の売主である日本娯楽機が本件リース物件を熱海後楽園に納入した旨の納品書を被告会社に交付していることが認められるのである。そうすると右に認定の事実によれば、高額でかつ用途・設置場所が限定されている大型娯楽機械である本件ティー・カップ、本件バブル・バウンスという物件の特性と原告会社と親交のあつた千代田の中山部長、神藤副部長の仲介によつて本件リース契約を締結するに至つた原告会社と被告会社との意思表示の内容に鑑みると、本件リース契約は、中山部長、神藤副部長が仲介して、本件リース物件を熱海後楽園に設置することを契約の目的としていたことが認められるものであるから、契約成立の段階では本件リース契約は特定物を目的物とした諾成契約であるというほかなく、この認定に反する特段の証拠はない。

2  次に、被告会社は、本件リース契約は、被告会社と日本娯楽機との間の本件売買契約の前提として、被告会社が原告会社に対して本件リース物件の売買代金相当額を融資するという金融手段の一類型ともいうべき契約であり、いわゆるファイナンス・リースとしての性質をもつものであるから、被告会社が日本娯楽機に本件リース物件の売買代金を支払つた後は、本件リース物件が原告会社に引渡されたかどうかを問わず、原告会社は本件リース料の支払義務を免れないものであると主張するので、検討する。

(一)  前に認定した1、(一)の(1)ないし(5)の事実に、〈証拠〉を合わせ考えると、以下の事実を認めることができる。

(1) 本件リース契約のような動産のリースにおいて、まず、一般的な取引形態としては、リース物件の売主と借主とが予めリース物件の種類、仕様、様式、代金、設置場所などを決めており、それを前提に、リース物件の売主又は借主の方から、リース会社にリースで借主の方に右リース物件を貸してくれるように申込みがなされるのが普通であるといわれている。この場合、リース会社は、売主と借主との間で定まつたリース物件の価格を前提にして、借主の希望するリース期間、借主の信用などを検討、審査して、リース料その他のリース条件を決めることになる。

リース契約が締結されるか、または、締結されることが確実になつてくると、リース物件は売主から借主の希望するリース物件の設置場所に直接引渡され、リース会社が右の引渡に関与しないのは取引上通常に行なわれることであり、この場合借主としては、リース物件の引渡を受けると直ちにこれを検査し、いわゆる検収を行うことになる。

リース会社は、このようにして借主とリース契約を締結することになるが、リース物件の売主との関係については、借主が少なくともリース物件を確実に借りるという段階になつてから、リース物件を売主から購入するということになるものであり、したがつて、リース会社は、借主とのリース契約を前提にして、リース物件を購入するため、売主との間で売買契約を締結するという関係になる。

借主は、リース物件の引渡を受け、その検収を終え、使用できる状態になると、リース会社に検収を終えた旨を表示する借受証を交付することになるが、その場合は、借受証が交付された日がリース期間の起算日となるし、リース料の支払もその交付日から始まるものであり、他方借主もその交付日からリース物件を使用することができるうえ、借受証が交付されてはじめてリース会社はリース物件の代金を売主に支払うこととなり、リース契約における借受証の交付のもつ意義は極めて重要であるというべきである。

(2) また被告会社が使用していたリース契約の契約書によると、その第五条には、物件の引渡として、「(イ)借主は、売主又は被告会社からリース物件の引渡を受けた後、一定の期限までにこれを検査のうえ、リース物件の借受証を被告会社に交付する、(ロ)リース物件の規格、仕様、性能、機能などに不適合、不完全その他の瑕疵があつたときは、借主は、直ちに被告会社にこれを通知し、また借受証にこの旨を記入する、借主がこれを怠つたときは、リース物件は完全な状態で引渡されたものとみなし、借主は以後一切の苦情を述べない」との趣旨で規定がなされ、第六条には、物件の瑕疵として、「売主からのリース物件の引渡が遅延したとき、又は売主から引渡されたリース物件にその規格、仕様性能、機能などに不適合、不完全その他の瑕疵があつたときでも、被告会社はその責任を負わない」との趣旨の規定がなされており、本件リース契約においても右の条項が含まれ、原告会社と被告会社は右の条項に拘束されることを合意していると認めることができる。

(3) 本件では、さらに、千代田の中山部長が、娯楽機械を実際には仕入れていないのに仕入れたように見せかけ、千代田に手形を振り出させて、右手形金をだまし取つていたとして、刑事事件の詐欺の容疑事件の一環として、中山部長がワールド興業の名前を使い、リース物件もないのに、本件売買契約の売主である日本娯楽機に本件リース物件の売買価格の一パーセントの金額に相当する利益を与えると約束し、それを条件に、本件リース物件をワールド興業から購入して被告会社に売つてほしい旨申し込み、日本娯楽機の了解を得たのであり、他方、本件リース契約の借主である原告会社に対しては、本件リース料の一割に相当する利益を毎月与えるとの約束のもとに、被告会社から本件リース物件のリースを受け、その後、さらに右物件をワールド興業に転リースをしてほしい旨申し込み、それを原告会社は了解していたものであること、そして、昭和四八年六月初旬にワールド興業が手形の不渡りを出して倒産するまでは、ワールド興業から原告会社に本件リース料の一割増に相当する金額が送金されていた。しかし、中山部長は、ワールド興業の倒産に先立つ同年五月一〇日ころから行方不明になつてしまつたことが本件訴訟の発端をなしている。

(4) 以上の事実を認定することができ、この認定を左右するに足りる他の証拠はない。

(二)  右に認定した事実と前記1、(一)の(1)ないし(5)で認定した事実とを合わせ考えてみると、本件リース契約の特徴として以下の事実を認めることができる。

(1) 本件リース物件の売主である日本娯楽機と借主である原告会社とは、本件リース物件およびリースの条件等については、一度も直接に交渉をしたことはなかつたこと、そして、契約内容は被告会社の担当者も含めてすべて中山部長の采配に従つて進行していた。

しかし、原告会社は、娯楽機械については千代田の第三事業部の製造部門を担当し、千代田の代理店という名称を使用するなどして、従前の取引関係から信頼していた千代田の第三事業部の中山部長の仲介によつて、毎月本件リース料の一割に相当する利益が得られるということを了解したうえで、本件リース契約を締結しようと考え、契約上は、本件リース物件の種類、設置場所、価格などを特定し、決定するに至つたものであり、他方、日本娯楽機も、従前取引関係のあつた中山部長の仲介によつて、本件リース物件の代金の一パーセントに相当する利益が得られるということを了解して、被告会社との間で、本件売買契約を締結しようと考え、契約上必要な本件リース物件の種類、設置場所、価格などを特定し、決定するに至つたものであり、結局、原告会社と日本娯楽機とは、中山部長の仲介によつて、それぞれ本件リース物件の借主および売主として、本件リース物件の種類、設置場所、価格などを特定し、契約を締結する決定をしていたものというべきである。

(2) そして、被告会社は、前述の借主と売主とを前提として、中山部長、神藤前部長の紹介によつて、原告会社に本件リース物件をリースした後、契約の趣旨に従つて、日本娯楽機から本件リース物件を購入したものであり、本件リース物件の種類、設置場所、価格、リース期間などは、原告会社と日本娯楽機との間で予め決められていたため、被告会社は、本件リース契約については、ただ、毎月のリース料支払の確実性、借主である原告会社の信用の状態を検討したうえリース契約の締結を決定しただけということができるのである。

(3) さらに、本件リース物件は、日本娯楽機から直接原告会社に引渡されることが予定されており、現に、日本娯楽機は、借主の希望する熱海後楽園に本件リース物件を納入した旨の納品書を被告会社に交付しており、原告会社も、本件リース物件を受け取りいわゆる検収を終えた旨の借受証を被告会社に交付している。

また、本件リース契約には、借主が異議なく借受証を被告会社に交付した場合には、以後借主は、リース物件が完全な状態で引渡されたものとみなされ、右物件についての一切瑕疵についての苦情を言えない旨の約定と、売主から引渡されたリース物件に瑕疵があつても、被告会社は責任を免れない旨の約定が規定されており、原告会社としては、被告会社との間での契約締結時には、右契約内容についての説明を受け、現実に本件リース物件の借主として、異議なく、被告会社に、右の趣旨の借受証を交付しているのである。

(4) 本件リース契約においては、通常の型態としては、原告会社が被告会社に本件リース物件についての借受証を交付したことによつていわゆるリース契約は成立し、その時点からリース期間が進行し、原告会社は本件リース物件を使用することができ、被告会社に本件リース料を支払うべき義務が生ずるものというべきであり、他方、被告会社は、売主である日本娯楽機に本件リース物件の売買代金を支払うことになつていたものであり、本件においては、本件リース料と右の代金はそれぞれ、各契約の趣旨に従つて支払われたものである。

(三) 右に認定の本件リース契約における特徴を考えると、本件においては、例えば契約の当事者を借主あるいは賃借人と呼称してはいるものの、対価を支払つて他人の動産等を使用収益することを目的とする賃貸借契約としての特質はさほど重要なものとはいえず、むしろ、リース会社である被告会社としては、リース物件の重要な個性であるその種類、価格などを決めるについては自ら何ら関与する必要性はなく、借主である原告会社と売主である日本娯楽機との間で、中山部長の仲介によつてそれぞれ決めたところを前提として、せいぜい毎月のリース料回収の確実性を検討しうる余地があるだけであつたのみならず、本件リース物件の引渡についても本件リース物件が自己の所有となるものではあるが、何ら関与することなく本件リース物件の瑕疵について自ら責任を負わないものとする契約上の趣旨に従い、原告会社が本件リース物件を借り受けるということを前提にして、日本娯楽機から本件リース物件を購入するということにし、日本娯楽機に対する本件リース物件の売買代金の支払についても、原告会社が本件リース物件について被告会社に異議なく借受証を交付して本件リース料の支払義務が生じてから後に支払うものであるとする通常のリース契約に従つて契約した判旨ものであるというとができる。そうすると、本件においては、本件リース契約の実質は契約当事者としては、本件リース物件の代金相当額を被告会社が原告会社に融資あるいは肩替りして支払い、原告会社が被告会社に右金額をリース期間で分割弁済するといういわゆるファイナンスリース契約の性格が強いものであるのみならず、原告会社が被告会社に異議なく借受証を交付すれば、その時点でリース契約は成立したとして、その時以降、原告会社は本件リース物件の瑕疵について被告会社にその責任を追及することはできないし、しかも原告会社は被告会社に対し本件リース料の支払義務を負うに至るものと解するのが相当である。

したがつて、原告会社が被告会社に異議なく本件リース物件について、借受証を交付し、被告会社が原告会社に肩替りして日本娯楽機に本件リース物件の代金を支払い終えた本件においては、本件リース契約上の原告会社の被告会社に対する本件リース料支払義務は発生したものというべきである。

そうだとすると、本件においては、本件リース契約の各当事者たる原告会社と被告会社のそれぞれ意図したところと、右リース契約によつて拘束される取引の実態との間にくい違いがあつたものといわざるを得ない。そして、その原因は、右各当事者が訴外中山部長の言動を信用したうえで行動決定をしていたことにあるということができる。

ところで、動産等の物の賃貸借が主眼であるとする契約についてみれば、その貸借すべき物件の不存在は、契約締結後において、目的物の使用収益ができない場合となり、賃貸人としては契約上の賃借人に使用収益させる債務の不履行という状態となり、従つて、賃借人としては、売買における売主の担保責任に関する規定の準用により、契約の解除または損害賠償の請求をすることができ、更には、履行不能による賃貸借の終了を理由として、その時以後の賃料の支払いを拒絶することができるというべきである。

しかし、他方リース契約の実態として、金融の面を強調すれば、それは単にリース契約に名を借りた消費貸借契約の一態様ということができる。

そして、本件では、契約成立時から、リース契約の目的物件は存在しなかつたのであり、その事実を原告会社および被告会社は、共に知らなかつたのである。しかし、右両当事者は、本件リース物件の存在を確認しようと思えば、容易に出来うる客観的状勢にあつたということができる。それを双方共怠つたが、原告会社は、昭和四八年九月二〇日以降は本件リース物件が存在しないことを了知していたものということができる。

そして、右のリース契約の成立後に至り、原告会社に対して本件リース物件に対するリース料の支払いを一応遅滞なく完了し、本件リース物件に対するリース期間も満了し、契約の目的は達成されたものとしている。しかも契約の途中である昭和四八年九月初旬ころには、原告会社において、本件リース物件の不存在を了知していたのであるにもかかわらず、本件リース料の支払いを完了しているのである。

そうすると、原告会社が、被告会社との間で、本件リース契約を締結するに至つた動機とその経緯、その間に介在した中山部長と原告会社との関係、契約成立後の各当事者の行動等を考慮すると、

本件において、原告会社が、被告会社に対して、本件リース契約は無効であるとして、既に支払つたリース料を不当利得として、その返還を求めることは、信義則上許されないと解するのが相当である。

そうすると、この点において、原告会社の主張は理由なきに帰するというべきである。

六以上の次第であるから、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小野寺規夫 中田昭孝 升田純)

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